私たちは寄生線虫のモデルとしてネズミ糞線虫Strongyloides rattiの幼虫を用い、そのケモタキシスとこれを阻害する酵素についての研究を実施した.成果の概要は次の通りである.1】1.5%アガロースゲルプレート上に塩化ナトリウム(NaCl)の濃度勾配を設定し、S.rattiL3を様々なNaCl濃度地点に放し行動を観察した。その結果、1)500mM以上の領域に放された場合には、虫の動きが抑制された。2)80-500mMでは、さらに低い濃度、すなわち80mM領域よりも低い濃度領域へと直線的な逃避行動を示した。3)80mM以下では、放された地点から80mM付近までは高濃度方向へ移動するが、80mMの領域は越えず、その後は同濃度以下の領域で引き返したり、進んだりする行動を示し、大小のループ状の軌跡を描いた。2】80-500mM領域内に放されたときに示す、この直線的な逃避行動を阻害するような種々の酵素、レクチン、化学物質の処理を検討した。その結果、β-glycosidase、β-galactosidase、hyaluronidase、trypsin、lipase、protease、phospholipase、soybean agglutinin、wheat germ agglutinin、spermidineにて、それぞれ処理した際に、虫の逃避行動の有意な阻害が認められた。3】同様な1.5%アガロースゲルプレート上に温度勾配を設定し、その上に2.で使用した種々の糖分解酵素処理を施した虫を放し、温度走性への影響を検討した。その結果、hyaluronidase、またはβ-glucuronidaseで処理した虫の温度に対する感受性が失われた。4】ラット、マウスの皮膚侵入性、体内移行実験において、hyaluronidase処理の影響を検討したが、皮膚侵入性、体内移行状況に有意な差は認められなかった。5】以上の知見から、体外でのS.ratti感染期幼虫の温度や化学物質に対する情報の受容器であるアンフィドの働きに、ヒアルロン酸由来のムコ多糖物質が強く関与する可能性が示めされた。
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