平成10年度で糸状虫感染幼虫の侵入行動を観察できるin vitroのアッセイ系を確立した。すなわち、寒天上で90%以上の虫体がスナネズミ(宿主)血清の穴に入るか、血清の方へ移動し、もう一つのPBS(-)の穴には移動しない、という系を確立させた。このとき虫体はPBS(-)液中で反応させるのが良いことを明かにした。 平成11年度では、まずこの反応がにおいの情報伝達系を介して生じたものかを検討した。虫体を入れる液を種々の情報伝達系に関与する液に置換して虫体の行動変化を観察した。その結果、1)陽イオンの関与:(1)PBS(-)液から塩化ナトリウムを除くとその反応は低下した。(2)0.9%生理食塩水ではPBS(-)液と同様の結果を得たが、0.45%では、その反応は低下した。(3)0.02%塩化カリウム液ではPBS(-)液と同様の結果を得た。(4)塩化カルシウム1mMでは83%の反応を示したが、5mMでは反応は低下した。2)セカンドメッセンジャーの関与:(1)ニブチルcAMP(0.1mMと10mM)、cGMP(10mM)、GTP(10mM)ではPBS(-)液と同様の結果を得た。8ブロモcAMPでは1mMで80%の反応を得たが、高濃度(5または10mM)では反応が低下した。(2)アデニールシクラーゼの活性化物質であるフォルスコリン(100、50μM)、セロトニン(0.25M)でPBS(-)液と同様の結果を得たが、セロトニンでは濃度を上げるとその反応は低下した。 これらの結果より、虫体の侵入行動開始にはにおいの情報伝達系に関与するナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンなどの陽イオンやアデニールシクラーゼ、またcAMP、cGMP等のセカンドメッセンジャーが関与し、「におい」との関連が示唆された。
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