本研究では糸状虫感染幼虫の宿主の認識および宿主への侵入行動を観察できる寒天培地を用いたin vitroアッセイ系、すなわち90%以上の感染幼虫がスナネズミ(宿主)血清へ走化性を示す系を確立させた。その条件は1)0.6%の寒天培地を用いること、2)蚊より感染幼虫を採集するにはハンクス液がよいこと、3)反応は27℃で行うこと、4)血清の反対側には蒸留水を用いること、であり、感染幼虫のageは反応に無関係であることが明かとなった。この系を用いて、糸状虫感染幼虫の宿主血清への走化性について下記の様なことが明かとなった。 (1)においの情報伝達系が関与していること。すなわち、Naイオン、Caイオンなどのイオンや、セカンドメッセンジャー(アデニールシクラーゼ系、cAMP/cGMP系など)が関与していること、(2)宿主認識に感染幼虫のマンノース、ノイラミン酸の存在が少なくとも関与していること、(3)単糖類(グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース)により、走化性が低下すること、(4)すべてのスナネズミの血清に対して90%以上の走化性を示さず、血清の個体差があること、が明かとなった。 しかしながら、感染幼虫の宿主血清への走化性にアンフィドが関与しているかは、いまだ結論が出ていない。 線虫の侵入行動に関する多くの報告は単に誘因物質の追求に終わっており、「におい」を関連づけて行われている研究は本研究のみで、更に詳細な検討が必要である。
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