本年度の研究成果として細菌を主たる栄養源とするE.disparの増殖に細菌に特有ともいえる解糖系経路のひとつであるエントナー・ドウドロフの経路或いはこれに類似したグルコン酸の代謝経路が利用されているらしいことが6-phosphogluconate(中間代謝物質)を加えた実際の培養実験およびE.disparの抽出液より見いだされた本経路に特徴的な酵素6-phosphogluconate dehydrataseの存在により推定された。そこでグルコン酸代謝をE.disparの解糖系の主要な経路と考え、新しい無菌培養用培地をデザインした。その結果従来のYeast extractを主成分とした牛血清、ビタミン、cysteineを含む培地にグルコン酸とともにdihydroxyacetoneを加えることで増殖数は少ないながら実際的なE.disparの無菌培養に成功した。無菌培養されたE.histolyticaとE.disparのvirulenceの比較は栄養型を実験動物の肝臓に直接、或いは門脈や尾静脈に接種することで行った。アメーバに感受性のハムスターではE.histolyticaが肝膿瘍を形成したのに対しE.disparでは肝膿瘍の形成はみられなかった。免疫不全のノックアウトマウス(rag-/-)ではE.histolyticaを尾静脈より接種した場合1例ではあるがB6-SJL-rag-/-にE.histolytica栄養型を接種したことでひき起こされたと考えられる脳病変(脳水腫)を認めた。脳組織標本からアメーバが検出されなかったためその発症機序などは不明である。現在その再現性について検討中である。同様に行ったB10・D2-rag-/-およびBALB/c・rag-/-への感染実験からは病変は全く認められなかった。
|