我々は細菌に特有とも言える解糖系経路であるエントナー・ドウドロフの経路をE. disparが利用している可能性を見出し、glucoseをcluconateとdihydroxyacetoneに置き換えた新しい培地YIGADHA-Sを考案した。その結果1株のE.dispar株の無菌培養が可能となった。さらに多くのE.dispar株の無菌培養に応用できるよう培養に有用な増殖因子について検討した。そしてYIGADHA-Sを用いてE.disparを培養すると増殖促進効果のある緑膿菌やC.fascilulataをオートクレープ(121℃、15分)した後でもその効果がうしなわれないことがわかり、さらにミトコンドリアをもつ哺乳類の細胞や原虫、ミトコンドリアに類似のヒドロゲノゾームをもつ原虫(腟トリコモナス等)そしてミトコンドリアと葉緑体をもつ植物の葉肉細胞を同様にオートクレープしたものでも増殖促進効果を持つことを見出した。これに対しこれらのオルガネラをもたない原虫(赤痢アメーバ、ランブル鞭毛虫等)、赤血球などの細胞には増殖促進効果はみえあれないことがわかった。そこでこれらのオルガネラの中にE.disparの増殖に重要で細菌にも共通する成分としてフェレドキシンを推定した。実際、精製されたホウレンソウのフェレドキシンにE.disparの増殖促進効果も認めている。しかしながらフェレドキソン自体は易熱性の蛋白であるため増殖促進物質の本態はフェレドキシンの合成に必要な熱に安定な鉄・硫黄中心のような物質ではないかと現在考えている。これらの結果をもとにE.disparの無菌培養のため、葉を破砕したあとも細胞が壊れにくい露草、桜、葛などの葉肉細胞から、より安価で簡便なフェレドキシンの粗抽出方法を考案した。YAGADHA-Sに上記のフェレドキシンの粗抽出液を加えることで、無菌培養が困難であった4株のE.disparの安定した無菌培養が可能となった。E.disparの病原体についての実験:E.disparの最適な寄生部位はヒトや霊長類の大腸の腸管腔内であるが、現在まで実験小動物に関してE.disparの腸管感染モデルは報告されていない。我々はrag遺伝子をノックアウトした免疫不全のBALB/c(rag-/-)マウスの盲腸に細菌共棲株ではあるがE.disparを接種し、短時間(3日間)ながら感染させることに成功した。現在このin vivoの系を用いてE.disparの組織侵入性について検討中である。
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