本研究では回虫生活史におけるミトコンドリア呼吸鎖成分の酸素応答を解析する目的で幼虫期の好気的呼吸鎖、とくに酸素と直接反応するシトクロムc酸化酵素(複合体IV)の分子生埋学的解明をめざしている。本年度は、1.L2幼虫およびC.elegansのミトコンドリアからシトクロムc酸化酵素を精製し、蛋白化学・酵素学的解析を行う、2.核山来のsubunitをコードするcDNAをクローニングし、その一次構造を解析する、の二項目を立案した。これまでL2幼虫については定期的に虫卵を培養後ミトコンドリアを調製し、また、成虫筋肉からaffinity columnのリガンドとしてのシトクロムcを精製中であるが十分な量を得るには至っていない。しかしながら、C.elegansに関しては培養が短時間で終了するためミトコンドリアの調製がすすみ、これまで不明であった呼吸鎖の実体を明らかにすることができた。本虫ミトコンドリアのシトクロムc酸化酵素の比活性はL2ミトコンドリアとくらべるとその約l/3であった。さらにキノン成分をHPLCとESIマススペクトルで同定・定量したところ、ユビキノン(UQ)を主成分として含むがロドキノン(RQ)もマイナー成分として含み、UQ/RQの比は3.56であった.また、コハク酸ユビキノン還元酵素(SDH)とフマル酸還元酵素(FRD)の活性比(SDH/FRD)は6.14の値が得られた。これらの値はいづれもL2ミトコンドリアと比べて高く、L2と比較するとより好気的であるといえる。しかしながら、ユビキノンのみを含む好気的哺乳類ミトコンドリアと比べるとFRD活性はC.elegansミトコンドリアのほうがなお高いことが明らかになった。これらの結果はC.elegansは自活性線虫ではあるがロドキノンを生合成する能力を有していること、また、嫌気的環境にも適応しうることを示しており奇生蠕虫の起源を考える上で非常に示唆に富む知見である。
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