これまでの研究から宿主腸管の低酸素分圧に生息する回虫成虫の呼吸鎖複合体II(Complex II)と、宿主体外の好気的環境で発育した感染幼虫の複合体IIはアイソザイムであり、成虫ではフマル酸還元酵素、幼虫ではコハク酸脱水素酵素としての機能を有していることが明らかになっていた。いずれもFp、Ip、CybL、CybSの四つのサブユニットからなり、すくなくともFpとCybSはそれぞれ異なった分子であることが生化学的解析から示唆されている。本年度は感染幼虫からDEAE-cellulofine column chromatographyによりComplex IIを部分精製し、その標品をPVDF membraneにブロットしてIpサブユニットのN-末端アミノ酸配列をアミノ酸シークエンサーで決定した。幼虫のIpサブユニットは成虫のIpとN-末端からすくなくとも26残基までは同一であった。さらにIpサブユニットをプロテアーゼで限定加水分解し、そのペプチドマップを成虫のものと比較したところ、ほとんど同一であり、また、ノーザンブロットによる解析の結果、成虫のIpが幼虫期に発現していることが示された。これらの結果は成虫と幼虫の複合体IIはそれぞれフマル酸還元酵素、コハク酸脱水素酵素として機能するがIpサブユニットは共通のものを用いていることを示唆している。
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