本研究では回虫生活史におけるミトコンドリア呼吸鎖成分の酸素応答を解析する目的で幼虫期の好気的呼吸鎖、とくに酸素と直接反応するシトクロムc酸化酵素(複合体IV)の分子生理学的解明をめざしている。計画は、1.L2幼虫およびC.elegansのミトコンドリアからシトクロムc酸化酵素を精製し、たんぱくかがく・酵素学的解析を行う、2.核由来のsubunitをコードするcDNAをクローニングし、その一次構造を決定するとともに、生活史における発現制御の解析を行う、の二項目を立案した。しかしながら、通常好気的環境に生息し、その呼吸好気的であるとされていたC.elegansに関して非常に重要な結果が得られたので計画を変更した。すなわち、平成10年度はこれまで不明であったC.elegans呼吸鎖のキノン成分とフマル酸還元酵素の解析の結果、C.elegansは自活性線虫ではあるがロドキノンを生合成する能力を有していること、換言すれば、嫌気的環境にも適応しうることが示され、気性蠕虫軒源を考える上で非常に示唆に富む知見を得た。平成11年度は好気的呼吸鎖を有する回虫幼虫の複合体IIのIpサブユニットの解析を行った。感染幼虫からDEAE-cellulofine column chromatographyによるComplex IIを部分精製し、その標品をPVDV membraneにプロットしてIpサブユニットのN-末端アミノ酸配列をアミノ酸シークエンサーで決定した。幼虫のIpサブユニットは成虫のIpとN-末端からすくなくとも26残基までは同一であった。さらにIpサブユニットをプロテアーゼで限定加水分解し、そのペプチドマップを成虫のものと比較したところ、ほとんど同一であり、また、ノーザンブロットによる解析の結果、成虫のIpが幼虫期に発現していることが示された。これらの結果は成虫と幼虫の複合体IIはそれぞれフマル酸還元酵素、コハク酸脱水素酵素として機能するがIpサブユニットは共通のものを用いてることを示唆している。当初立案した計画については現在さらに進めている。
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