赤痢アメーバの表面レクチンは宿主細胞への接着に重要な役割を果たしており、それに対するマウスモノクローナル抗体は、モデル動物において赤痢アメーバによる肝膿瘍形成を阻止できることが知られている。そこで、赤痢アメーバ症の治療や予防への応用をめざし、遺伝子工学的手法を用いてヒトモノクローナル抗体の作製を試みた。アメーバ症患者の末梢血液中のリンパ球を出発材料とし、RT-PCRによってH鎖(γ)のFd領域とL鎖(κ)をコードする遺伝子をそれぞれ増幅した。これらの遺伝子断片を発現ベクターpFab1-His2に組込み、大腸菌にトランスフォームしてライブラリーを作製した。約3×10^3個のコロニーについて、抗赤痢アメーバ抗体(Fab)産生の有無を関節蛍光抗体法で調べた。その結果、5つのクローンが陽性であり、このうちの4つは赤痢アメーバ特異的なエピトープを認識していると思われ、3つの抗体は260kDa抗原を認識していた。しかし、これらの抗体が認識するエピトープは赤痢アメーバの虫体表面には存在せず、赤痢アメーバの宿主細胞への接着を阻止することはできなかった。そこで、コロニープロット法を用いて、抗アメーバ抗体産生コロニーのスクリーニングを行った。その結果、約5×10^4個のコロニーの中から、赤痢アメーバと強く反応する1クローンが得られた。調べた限り赤痢アメーバのすべての株と反応したが、他種アメーバとは反応しなかった。赤痢アメーバの生虫体を用いた関節蛍光抗体法でも反応が見られ、ウエスタンブロットにおいて260dKaの抗原と反応したことから、Gal/GalNAcレクチンを認識していると思われた。赤痢アメーバ虫体をこのヒト抗体で前処理したところから、ヒト赤血球への接着反応が有意に抑制され、この抗体がアメーバ症の治療や予防に応用できる可能性が示唆された。
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