本研究は、申請者が単離したLeishmania amazonensisの2つのp-糖タンパク質遺伝子(LaMDR1およびLaMDR2)について、リーシュマニアの薬剤耐性ならびに寄生適応におけるそれぞれの遺伝子の役割を明らかにすることを目的として行われた。今年度は、まずLaMDR1遺伝子の全塩基配列を決定した。その結果、LaMDR1遺伝子は1381のアミノ酸をコードしており、LaMDR2遺伝子のコードする1267のアミノ酸と47%の相同性しか示さないことが明らかとなった。次に、LaMDR1およびLaMDR2遺伝子をそれぞれpXGとp6.5ベクターに組込んで、これをリーシュマニアの野生株に電気穿孔法により導入し、これらの遺伝子が安定に過剰発現する株を確立した。LaMDR1遺伝子発現株は、ビンブラスチン、ドキソルビシン、アクチノマイシンDなどの抗がん剤に対する抵抗性を獲得したが、コルヒチンやピューロマイシンなどの薬剤には耐性を示さなかった。このLaMDR1遺伝子導入によって耐性となる薬剤の種類は、他種リーシュマニアのMDR1遺伝子導入による場合とは異なっており、リーシュマニア種間におけるMDR1遺伝子の機能的多様性が示唆された。一方、LaMDR2遺伝子発現株は、これらの抗がん剤に対しては耐性を獲得せず、また亜砒酸やアンチモンなどの有機アニオンに対しても感受性のままであった。しかし、核酸アナログの抗がん剤である5-FUには有意の抵抗性を示した。このことから、LaMDR2遺伝子は、薬剤耐性を担うリーシュマニアの新しいp-糖タンパク質遺伝子である可能性が強く示唆された。
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