本研究において、Leishmania amazonensisから2つのP-糖タンパク質遺伝子(LaMDR1およびLaMDR2)を単離した。LaMDR1遺伝子は1341のアミノ酸から構成され、その構造的特性と同遺伝子を導入して過剰発現させたリーシュマニア株がビンブラスチン、ドキソルビシン、アクチノマイシンDなどの抗がん剤に耐性を獲得したことから、LaMDR1遺伝子はヒトの多剤耐性遺伝子MDR1と相同の遺伝子であることが明らかとなった。一方、1267のアミノ酸をコードするLaMDR2遺伝子はLaMDR1遺伝子とは47%のアミノ酸相同性しか示さなかった。LaMDR2遺伝子発現株は、上記の抗がん剤に対しては耐性を獲得せず、核酸アナログの抗がん剤である5-fluorouracil(5-FU)に有意の耐性を示した。この事実より、LaMDR2遺伝子はP-糖タンパク質構造をもちリーシュマニアの薬剤耐性を担う新しいABCトランスポーター遺伝子である可能性が強く示唆された。さらにこれらの薬剤のリーシュマニア細胞内蓄積について検討した。[^3H]ビンブラスチンは時間的経過にともなって細胞内に蓄積したが、LaMDR1遺伝子導入株では対照株に比べてその蓄積量が多い傾向がみられた。[^3H]5-FUの細胞内蓄積量は、対照株では時間経過にともなって増加したのに比べ、LaMDR2遺伝子導入株では薬剤暴露30分までは対照株より増加したのちは逆に減少し、120分後には対照株の20-30%にまで低下した。この現象から、LaMDR2タンパクが細胞内小胞の膜に存在して5-FUを一時的に小胞内に蓄積・隔離し、そののち小胞輸送によって細胞外に排泄するというモデルを考えることができる。 現在、LaMDR2タンパクの細胞内局在について、作製した抗ペプチド抗体を用いて検討を行っている。また、それぞれの遺伝子の欠損株の作製については、今後の課題として残された。
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