研究概要 |
コガタアカイエカ(C.t.)の有機りん剤抵抗性Toyama系統では,同薬剤の作用点であるアセチルコリンエステラーゼ(AChE)のfenitroxonに対する感受性が対照の感受性系統に比べ約1/1000に低下し非感受性となっている。前年度までの研究では抵抗性系統に特異的なAChEタンパク質一次構造変異が見出されなかった。今年度は,AChEの非感受性遺伝子(AChE-R)と構造遺伝子座(Ace)の同一性について検証した。Toyamaと感受性系統の間のF_1雄をToyama雌で戻し交配することにより得たB_1を用い,頭部AChEの10^<-5>M fenitroxon阻害による相対残存活性,C.t.AChE cDNAほかネッタイシマカ由来11個のcDNAクローンをプローブとする制限酵素断片長多型(RFLP)解析による対立遺伝子,雄性決定遺伝子の有無を標識として,3対の染色体上へのこれら遺伝子座の量的形質連鎖(QTL)解析を行った。その結果,Aceは第1染色体上のTY7遺伝子座の1.3cM近傍に,AChE-Rは第2染色体上の[LF106-14.8cM-AChE-R-24.6cM-LF115]の位置に,それぞれ単一の主働遺伝子としてマップされ,AChEの殺虫剤非感受性は既知のAChE構造遺伝子座に由来しないことが明らかになった。非感受性をもたらす要因としては次の2つの仮説が考えられる。(I)未知の第2のAChE遺伝子の点突然変果による;(ii)翻訳後修飾に関わる酵素遺伝子の発現量または機能に関わる突然変異。キイロショウジョウバエではゲノム内にAce遺伝子座は1つしか存在せず,かつ,AChE配列が既知の7つの双翅目昆虫では,Ace遺伝子が形態分類学から推定される系統樹と一致してorthologousな進化を遂げているとみなせること,および,本種の抵抗性と感受性系統のそれぞれには一種の酵素kineticsしか見出せないことの2点から,(ii)の仮説に従う要因が非感受性をもたらしている可能性が大きい。
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