グラム陰性菌のリポ多糖体(LPS)は外膜に局在する分子で、O多糖とリピドAが、コアオリゴ糖を介して結合した分子である。O多糖はO抗原として細菌の血清型別に利用され、多様性に富んだ構造をしている。この構造多様性は、繰り返し単位を構成する糖の種類、それらの結合様式の違いなどによる。本研究では、O多糖構造が類似し、その合成遺伝子も90%以上の相同性を示すE.coli O9とO9a、Klebsiella O3をモデルとし、これらの菌のO多糖構造の違いがどのような遺伝的違いに起因するかを詳細に検討した。これらの菌の多糖合成遺伝子群は8個の遺伝子で構成され、これらのO多糖構造の違いは、wbdA遺伝子にコードされたマンノース転移酵素(WbdA)に依存していることを明らかにした。さらに、クローニングしたwbdA遺伝子構造と遺伝子産物の比較から、14ヶ所のアミノ酸置換がO多糖構造に関係していることを推定した。hybrid wbdA遺伝子を作成し、WbdAのN末側ドメインがO多糖構造を決定することを明らかにした。この領域では8ヶ所のアミノ酸置換があった。合成DNAを用いてこれらのアミノ酸置換をO9由来のwbdAに導入し、55番目のシステインをアルギニンへ置換した場合のみ、O9多糖がO9a多糖へ構造変化することを明らかにした。O9a由来のwbdAにアルギニンからシステインという逆のアミノ酸置換を導入してもO9多糖への構造変化は起きなかった。以上の結果から、点変異の結果起こるたった一つのアミノ酸残基置換により、E.coli O9a株がE.coli O9株から生じた可能性が強く示唆された。このように、細菌は遺伝子の水平伝搬に加え、点変異の蓄積によりO多糖構造を多様化する機構を明らかにした。
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