研究概要 |
ガス壊疽の重大な合併症の一つに急性腎不全があり、ガス壊疽の予後を決定する重要な因子の一つである。本研究の初年度にあたる平成10年度では、ガス壊疽原因菌として最も頻度が高いウエルシュ菌が産生するθ毒素が腎臓のクリアランス機能におよぼす影響を明らかにすることを目的に、毒素の分腎投与によるin vivoでの左右腎機能の比較の実験から以下の結果を得た。 1. 静脈内θ毒素投与による亜急性致死量の決定。 θ毒素のラット(平均体重約300g)に対する急性致死量は8,000〜10,000HUであったが、急性期に死亡を免れた動物は全て1週間後においても生存していた。これらの結果から、θ毒素の腎クリアランス機能に対する影響を明らかにする亜急性実験においては、1,000〜3,000HUの毒素が適当であることが明らかになった。 2. 静脈内θ毒素投与による腎クリアランス機能の測定 1,000HUのθ毒素をラットの右大腿静脈から投与し、腎クリアランス機能を経時的に測定した。毒素投与前の尿量(UV)、イヌリンクリアランス(CIN)、パラアミノ馬尿酸クリアランス(CPAH)、濾過分画(FF)は、それぞれ0.405±0.033,1.463±0.181,4.493±0.489,0.689±0.043であり、毒素投与後のUV,CIN,CPAH,FFはそれぞれ0.521±0.149,1.604±0.251,5.588±1.474,0.658±0.093でいずれの機能指数にも有意差は認められなかった。 3. 毒素の分腎投与による左右腎機能の測定 左の腎動脈に直接θ毒素を注入し、一日後に左右の輸尿管から直接尿を採取することによって、毒素の腎クリアランス機能に及ぼす影響を調べた。32HUの毒素を左腎動脈に注入したラットでは、健側(右)腎のCINおよびCPAHは0.925±0.012,4.165±0.509であったのに対して、患側(左)腎のCINおよびCPAHは0.151±0.010,0.672±,214と著しい低下を示していた。 以上の結果より、θ毒素の腎機能に対する作用は、数分から1時間程度で極大に達する致死毒作用や細胞障害作用などとは異なり、日単位の潜時が必要なことが解った。これらの結果を基に平成11年度においては摘出腎に対するθ毒素の作用を解析し、毒素の腎毒作用に影響を与える生体側因子の解析を進める予定である。
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