研究概要 |
ウェルシュ菌ホスホリパーゼC遺伝子(plc)のプロモーター上流には3つのphased A-tracts(-66〜-40)が存在する。この領域は折れ曲がり(ベント)構造を形成し、プロモーターとRNA polymerase(RNAP)との接触領域の拡張により転写開始複合体の形成を容易にする。面白いことにこのベントDNAの折れ曲がりの度合いが増強される低温ほど、下流のplcプロモーターの転写促進が顕著に観察された。このことはphased A-tractsによる転写促進が低温依存的であることを示している。(Katayama,S.et al.1999.EMBO J.18(12):3442-3450.) 3つのphased A-tractsがRNAPのどの部位と結合するのかを明らかにすることはベントDNAの転写促進の分子機構を解明するために重要である。これまでの大腸菌RNAPに関する知見から、phased A-tractsはRNAPαサブユニットと結合する可能性が高いと考えられる。このことを示すために、まずウェルシュ菌RNAPαサブユニットの遺伝子(rpoA)を含む領域1.6kbをPCRで増幅し、その全塩基配列を決定した。このrpoA遺伝子の塩基配列から予測されたアミノ酸配列は、精製したウェルシュ菌RNAPαサブユニットのN末端配列と一致した。rpoAのcoding regionをpET11-aに挿入後、大腸菌内で大量発現させ、αサブユニット(α-WT,315aa)を精製した。同様の方法でαサブユニットのN末端ドメイン(α-NTD,228aa)、C末端ドメイン(α-CTD,79aa)をそれぞれ精製した。 3つのphased A-tractsとplcプロモーターを持つDNA断片(3AP)と精製α-WT、α-NTD、α-CTDを25℃で共存させ、gelretardation assayを行った。α-WTとα-CTDは3Apに結合したが、α-NTDは結合できなかった。この結果から、phased A-tractsにRNAPのαCTDが結合する可能性が示された。現在、3Apとα-WT、α-CTDの接触領域を明確にするため、ヒドロキシルラジカルフットプリンティングを用いた解析を進めている。
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