当該研究は、細菌が産生する孔形成細胞溶解毒素による生体膜傷害機構を電子分光顕微鏡を用いて、超微細形態的に解析することを目的としている。 1.電子分光顕微鏡を用いて量子ノイズを軽減し、従来のフィルムにかえてイメージングプレート(IP)で撮影することにより、照射電流を1/100以下にでき、電子線に弱い本研究目的試料の高分解能観察に非常に有用であった。 2.孔形成細胞溶解毒素としては、代表的な溶血レンサ球菌が産生する溶血毒素であるストレプトリジンO(SLO)を中心に解析した。また、これらの毒素によって形成される孔を伴ったリングは、二重のリング構造として観察され、この二重の内外の構成分子の異同の究明も課題の一つであった。ボツリヌス菌が産生するボツリノリジンにおいても、電等点の異なる2種が存在するSLO作用時と同様に、二重リングであるとの結果が得られ、内外同一分子である可能性が高いとの結論を得た。 3.SLOで得られた電子分光顕微鏡観察結果を元に広範な生物試料観察への応用として、人毛やフェリチン粒子、硬組織などの観察も試み、成果を得た。さらに、一酸化ケイ素(SiO)を原料とし、炭素を含まない支持膜の作製に成功し、この膜で大腸菌の凍結超薄切片を載せ、その全体像を捕らえることができた。非炭素膜の粒状性は、蛋白分子の観察に支障がない程度に細かいもので、本実験のような蛋白分子の観察にも応用できる可能性が得られた。 4.これらの毒素の生体膜傷害作用におけるコレステロールの役割を明確にするために、膜クランプ法を導入して、合成フォスファチジルコリンで作製したリポソームでの解析を行い、今後、新たな視点で孔形成機構を解明できる可能性が開けた。
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