毒素原性大腸菌が産生する耐熱性エンテロトキシンII(STII)の簡便なアッセイ法を、マウスの腸管ループを用いて確立した。このアッセイ法を駆使し、STIIの精製に成功した。確立したマウスの腸管ループ法を用いてSTIIの下痢発現機構について検討した。また、最近、外国渡航者の下痢原因菌として注目されているAeromonas sobriaが産生する溶血毒素を精製し、その性状についても検討した。主たる成果は以下の通りである。 1.STIIはマウス腸管上皮細胞のプロスタグランジンE_2(PGE_2)の産生を促進し、STIIの下痢は、PG合成阻害剤であるインドメタシン(IM)処理で阻害された。さらに、STIIはマスス腸管上皮細胞のカルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)を活性化し、STIIの下痢は、CaMKIIの特異的阻害剤であるKN-93処理で阻害された。これらの結果から、STIIの下痢発現にPGE_2およびCaMKIIが重要であることを明らかにした。 2.A.sobriaが産生する溶血毒素の精製に成功した。この溶血毒素は、溶血活性の他に、下痢活性をも有する特異な毒素である事を明らかにした。溶血毒素はマウス腸管上皮細胞のPGE_2の産生を促進し、溶血毒素の下痢はIM処理で阻害されることから、溶血毒素の下痢発現にPGE_2が重要であることを明らかにした。 3.A.sobriaの溶血毒素はT84細胞に対し、サイクリックAMP(cAMP)産生を促進し、しかも、細胞外cAMP濃度を上昇させた。今後、cAMPと下痢との関係を検討する。 4.A.sobrianの溶血毒素は、腸管由来細胞であるIntestine407の細胞膜に存在する分子量約66kDaのGPI-アンカータンパク質に結合することを明らかにした。
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