レトロウイルス感染に対して宿主の細胞内で働く免疫の制御遺伝子であるマウスのFvlは、1996年にクローニングされたが、その作用機構は未だ明らかでない。Fvl制御のターゲットとなるウイルス側部位は、gag遺伝子のキャプシド(CA)蛋白であることが分かっている。レトロウイルスのCAは、Gag蛋白とGag-Pol融合蛋白の2種の前駆体蛋白にコードされている。両者がコードするCAに機能的な差があるかどうかを明らかにするため、Gag蛋白発現ウイルスとGag-Pol融合蛋白発現ウイルスとを相補させてウイルス増殖させられる系を用いた実験を行った。Fv1制御のターゲットとなるかどうかで、ウイルス側のCAは、N.B.NBの3種類に分かれ、この3種それぞれのCAをコードするGag発現ウイルスとGag-Pol発現ウイルスを作成した。Gag発現ウイルス側をNあるいはBタイプにした場合、ヘテロなGag-Pol発現ウイルスとの相補を実現できなかった(この理由は不明である)。Gag発現ウイルス側をNBにした場合は、Gag-Pol発現ウイルス側をN.B、あるいはNBとした3種類の相補ウイルス産生が実現できた。この3つの相補ウイルスを、Fvlnn(Bタイプのウイルスの増殖を抑える)、Fv1bb(Nタイプのウイルスの増殖を抑える)、Fv1null(N.Bどちらのウイルスの増殖も抑えない)の各細胞でtitrationを行い比較した結果、Gag-Pol融合蛋白から供給されるCAが、Fv1制御に関与していることが示された。Fv1制御は、ウイルスの細胞内侵入後、プロウイルスが宿主染色体に組み込まれる前に働くことが示唆されており、上記の結果は、Gag-Pol融合蛋白がゲノムのすぐ近傍に存在し、そこからプロセスされたCAが、細胞に感染後も複製中間体と共に挙動する可能性を示唆する。
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