本研究では、パラミクソウイルスのセンダイウイルス(SeV)のM蛋白(Matrix蛋白;エンベロープ裏打ち蛋白)の分子構造と機能との関連を、パラミクソウイルス間で保存されているシステイン残基に着目して検討した。 1. M cDNAへの部位特異的変異の導入:M蛋白にある5つのシステイン残基をひとつひとつセリン残基に置換した変異体(C83S(83番目のシステインをセリンに置換した意味。以下同じ。)・C106S・C158S・C251S・C295S)、および全てのシステインをセリンに置換した変異体(Cys(-))のcDNAを作製した。 2. 変異蛋白の細胞内発現:培養細胞で変異M蛋白を発現さたところ、いずれの蛋白も細胞内で安定であった。また、野生型M蛋白のシステインは、細胞ライセートを免疫沈降して処理している間に酸化されて分子内ジスルフィド結合を形成することがわかった。Cys(-)のM蛋白ではこの現象は見られず、他の変異体では部分的にジスルフィド結合の形成が見られた。尚、この現象は野生型ウイルスの精製粒子でも見られたので自然の感染サイクルでも起こっているものである。 3. M蛋白変異SeVの回収:変異M cDNA断片をSeV全ゲノムDNAの相同部分へ移し、鶏発育鶏卵を用いる方法で変異MをもつSeVの回収を試みた。C83S・C106S・C295Sではウイルスが回収できたが、C158S・C251S・Cys(-)では回収できなかった。鶏発育鶏卵での効率よいウイルス増殖に158番目や251番目のシステインが関与することが疑われた。 来年度は、回収されたウイルスについて、培養細胞での増殖能、自然宿主(マウス)での増殖・病原性などについて検討する予定である。さらに回収できなかったウイルスに関しては、感染細胞と非感染細胞と混合培養する別の方法で、変異ウイルスの持続感染細胞の作出を試みる。
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