本研究では、cDNAからのセンダイウイルス(SeV)回収系を利用してM蛋白(Matrix蛋白;エンベロープ裏打ち蛋白)の分子構造と機能の関連を検討した。SeVM蛋白の5つのシステイン(Cys)残基のうち、1・2・5(番号はアミノ末端から)の変異ウイルスを回収できた。 1.非還元SDS-PAGEで検討したところ、MCys(-)ウイルスのM蛋白は異なる状態のジスルフィド結合を形成していた。さらに電子顕微鏡観察・しょ糖密度勾配遠心法でウイルス形状の変化が観察できた。Cys1(-)・Cys2(-)ウイルスではウイルスが小さくなり、さらに遺伝子を含まない不全粒子が多く観察された。一方、Cys5(-)ウイルスではウイルス粒子の大きさが広く分布して、非常に大きなものも観察された。以上の知見は、M蛋白システイン残基がウイルス形態に影響を与えることのはじめての報告である。 2.培養細胞での一段階増殖を検討したところ、Cys1(-)・Cys2(-)ウイルスでは子孫粒子の細胞からの放出が阻害されていた。Cys5(-)ウイルスは、親株ウイルスよりもむしろ効率よく放出された。細胞での多段階増殖は細胞からの放出効率とおおむね相関していたが、Cys5(-)だけは例外で、親株ウイルスよりも多段階増殖能は低かった。マウス個体での増殖と病原性は、培養細胞での多段階増殖能と相関していた。以上の結果は、M蛋白システイン残基がウイルス集合の効率・増殖効率・マウスへの病原性に影響を与えていることを示す。還元状態である細胞質でのM蛋白ジスルフィド結合・変異M蛋白の膜結合能・raft結合能などを解明する必要がある。 3.以上の成果について、第14回インフルエンザ研究者交流の会シンポジウム・第16回中国四国ウイルス研究会・第11回国際ウイルス学会・第47回日本ウイルス学会で発表した。現在、論文にまとめている。
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