研究概要 |
インフルエンザ脳炎・脳症患者由来のウイルスのうちMDCK細胞での増殖にトリプシンを必要としないウイルス(NV)の神経病原性の検討を中心に、インフルエンザ脳炎・脳症の病因解明を試みた。1.10^4PFU相当のNVウイルスをマウスに脳内接種して、その影響を神経病原性を示すWSN株の場合と比較した。その結果、NVウイルスではWSNの様な運動能の低下や体重の減少は見られず、病理学的検討の結果、神経細胞での抗原の存在も認められなかった。2.NVウイルスのヒト由来神経系細胞(neuroblastoma,glioblastoma)での増殖能をトリプシン存在下、非存在下で検討した。WSN株はトリプシン非依存的にいずれの細胞でも増殖した。NVウイルスはトリプシン非存在下では増殖せず、glioblastomaではトリプシン依存的に増殖したものの、その増殖能はWSNの1/8であった。3.患者髄液中のウイルスの分離、ウイルスゲノムの検出の系を構築した。1PFU相当のウイルスを検出できるこの系を用いて、10検体で検出を試みたがいずれの検体からもウイルス、ゲノムともに検出されなかった。以上の結果から、WSN株に性状の似ているNVウイルスはWSN同様の神経病原性は獲得していない。また、ウイルスが直接脳内に侵入している可能性は非常に低い、の2点があきらかとなった。さらに、4、脳炎・脳症発症の原因として血中の炎症性サイトカインの上昇が指摘されていたため、NVウイルスの血管内皮細胞でのサイトカイン誘導脳を検討した。血管内皮細胞はヒトの肺および脳由来の細胞を用いたが、いずれの場合もIL6の誘導は観察されなかった。世界的に同じウイルスが流行しているにも拘らず、日本でのみインフルエンザ脳炎・脳症例が多いことから、今後宿主側の要因も検討していく必要がある。
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