平成11年度は、まず、HCV遺伝子複製の実験系を構築するため、RNA複製酵素であるNS5Bを大腸菌において発現させ、活性の検出を試みた。NS5Bのアミノ酸配列は、クローン化MT-2細胞(MT-2C)において培養されたHCVの遺伝子より得た。一般的にNS5Bの可溶化は困難であるが、我々のNS5Bは、唯一MBP(Maltose Binding Protein)との融合たんぱく質として発現させた場合に、一部が界面活性剤非存在下で可溶化していた。そこで、このMBP-NS5Bをアミロースカラムによりアフィニティ精製し、RNA複製活性をボリAオリゴU依存性UMP取りこみ法にて検討したところ、これまでに報告されている中では最も高い比活性を示した。UVクロスリンク法により、MBPNS5Bと3'XRNAとの結合の検討を行ったところ、結合は陽性であったが、非標識の3'XRNA配列による阻害が弱く、結合の特異性を証明できなかった。さらに、われわれはこのMBP-NS5Bの興味深い性質を見出した。この極めて高い活性を有するMBP-NS5Bは16万xgの遠心により沈殿し、これが、Mgを除去することにより再可溶化した。この標品からrRNAが検出され、MBP-NS5Bはリボゾームと結合していることが明らかとなった。欠失ミュータントを用いた解析により、NS5BのN末端、C末端それぞれ約100アミノ酸の範囲内に結合の責任領域が存在することがわかった。さらに、ヒト細胞より調製したリボゾームもNS5Bに結合した。従って、NS5Bはリボゾームと特異的に結合すると結論された。このことは、HCVのライフサイクルを考える上で極めて示唆に富んでいる。3'RNAとリボゾームタンパクとの結合や、3'X結合たんぱく質とリボゾームの結合が知られており、従って、HCV遺伝子の翻訳、複製の過程において、3'X領域などのHCVRNA、3'X結合たんぱく質、NS5B、そしてリボゾーム、が巨大な翻訳・複製複合体を形成しているという仮説が考えられた。
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