Tリンパ球抗原レセプターTCRの構成鎖は胸腺にて発現されT細胞分化制御に大きな役割を果たす。とりわけT細胞初期分化にはTCRα鎖を伴わないTCRβ鎖複合体(プレTCR)の発現が必須である。最近プレTCR固有の構成鎖pTαが明らかにされたが、pTα欠損マウスにおいても少なからずT細胞の成熟が観察され、pTαがプレTCRに必須の構成鎖なのかを含めてpTαのTリンパ球分化における機能をもう一度問い直すべき必要が生じてきた。そこで本研究では、pTαの発現様式とその機能を明確にするために、pTαに対する単クローン性抗体を作製した。得られた単クローン性抗体は、pTα細胞外領域とチオレドキシンの組換え融合タンパクに結合し、チオレドキシン単独には結合しないことから、組換えpTαに特異的に結合する抗体であった。またこの抗体は、正常マウス胸腺細胞の約2%程度への結合性を示したのみならず、pTα陽性マウス未熟胸腺細胞株KKF及びSCB29に結合し、pTαを発現しないマウス成熟T細胞株2B4には結合しなかった。更にこの抗体は、KKF細胞よりpTαに等しい33kDのTCRβ会合表面タンパクを免疫沈降し、マウスpTαの全長cDNAを発現させたCOS7細胞を特異的に染色した。以上の結果から、得られた単クローン性抗体はマウスpTα細胞外領域に結合性を示す抗体であると考えられた。しかし最近になってこの抗体はpTαを発現しない細胞の内、成熟Bリンパ球の一部に結合性を示すことが判明し、真にpTα特異抗体とはいえない可能性が生じてきた。現在、新たなpTα特異的抗体のスクリーニングを再開すると共に、この抗体が結合するBリンパ球分子がどのような性状の分子であるか、新規pTα近縁分子の可能性を検証するべく解析を進めている。
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