生体の細胞性免疫機構が腫癌の発生を免疫学的に監視しているといういわゆる免疫学的に監視(Immune surveillance)説は、1950年代にThomasやBurnetによって唱えられた。この考え方は広く受け入れられてきたが、その科学的根拠は、未だに確立していない。また、腫瘍の発生および増殖における免疫エスケープ(Tumor immune escape)のメカニズムも同様に科学的根拠は確立されたものとは云えない。最近、生体の免疫機構が認識する腫瘍抗原が分子レベルで同定されるようになり、腫瘍抗原の本態が明らかになった。さらに、それらの腫瘍抗原に対する宿主の免疫応答を詳細に解析できるようになった。このような進歩に基き、腫瘍の免疫学的監視および免疫エスケープ説を改めて検証する必要がある。われわれは、マウス白血病RL♂1をモデル腫瘍として用いて腫瘍抗原特異的な免疫調節性CD4 T細胞の存在を明らかにし、強い拒絶抗原である変化したAkt分子がCD8 CTLを誘導すると同時にこの種の調節性CD4 T細胞をも活性化することを明らかにした。さらに、このような腫瘍抗原特異的な調節性CD4 T細胞の他に、腫瘍抗原非特異的な調節性CD4^+CD25^+ T細胞の存在を明らかにした。これらの細胞集団は、自己抗原に対する反応を抑制しているが、CD4^+CD25^+ T細胞の除去により、有効な抗腫瘍免疫応答が誘導されることを明らかにした。CD25はIL-2Rαであるが、これに対する特異的モノクローナル抗体の投与によって、in vivoでCD4^+CD25^+ T細胞の数の減少が起こり、この後に腫瘍を接種すると、8種類用いたマウス腫瘍株のうち6種類の腫瘍に一旦腫瘤の形成をみた後に拒絶されることがわかった。
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