研究概要 |
本年度は、1.紀伊半島多発地古座川町とこれまで患者発症のない串本町大島地区を中心に、(1)1973-1994年死亡率調査、(2)1989-1993年発病率調査、(3)県特定疾患医療受給情報や保健婦や地域医療関係者のインタビューによる予備調査に基ずき患者発症状況を把握した。また、2.両地区の地質学的環境を比較するため、飲料水の水源(河川、谷水、井戸および浄水)のCa,Mgなど含有量を再調査した。1.(1)死亡率調査では、古座川町(人口4,193人、1990年)で8名、串本町(17,385人)で24名の死亡者があったが、対照地区の大島(1,667人)には患者は確認されなかった。(2)発病率調査では、古座川町で発症者2名(平均年間発病率9.5人/10万人)、串本町で2名(2.30人/10万人)であったが、大島地区には発症を見なかった。また、(3)今回の予備調査でも1999年1月1日の時点有病率で古座川町47.7人/10万人、串本町5.75人/10万人で、なお大島地区には患者発症を見ていない。2.水質調査では、紀ノ川以北の河川のCa,Mg含有量(平均含有量Ca24.5,Mg3.0ppm)と比べ、古座川水系(Ca3.1,Mg0.8ppm)は極めて低値であった。串本町の水道は古くより古座川を水源としていたが、離島大島地区のみ1973年まで地元の井戸水を飲料水(Ca12.2,Mg4.1ppm)としていた。 紀伊半島南部は患者の多発する地帯であるが、地質学的にも特異で河川のCa,Mg含有量が極めて低いことが指摘されてきた。しかし、串本町大島地区は1960年代から現在まで40年間患者発症をみない点で特異な地域である。大島住民は、過去Ca,Mg含有量の比較的高い井戸水を常用しており、Ca,Mg欠乏による中枢神経系への酸化的ストレスを回避していたものと推定される。
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