研究概要 |
最終年度にあたり、生体組織・特に等価散乱係数が軟組織に比較して高い骨組織の光学定数を出来るだけ精密にピコ秒時間分解計測によって計測するための検討を行った。骨組織の等価散乱係数が主として骨塩量を反映するが、骨髄あるいは骨循環による骨内Hbによる光吸収が等価散乱係数の推定値に影響を与える。さらに体外から骨組織の光学特性を測定する場合には、骨を覆う筋肉・皮下組織・皮膚による計測への影響が問題となるため、各組織層の光計測への影響を、ヒトとほぼ同等の組織厚みを持ち実験に適しているブタを使い、麻酔下で体外より光計測を行った。インドシアニングリーン(ICG)は、血清中で速やかに血中タンパク質と結合して、赤血球中ヘモグロビンの酸素化脱酸素化に伴うスペクトル変化の等吸収点である805nmに光吸収のピークを持つ安定な複合体を形成する。この性質は、805nmにおける光吸収を追跡することにより、Hb酸素化脱酸素化に伴う光吸収変化の影響を受けず血液に由来する光吸収の計測への影響を把握するのに好都合であり、またすでに肝機能・循環血液量の検査などに広く臨床的に用いられており、生理機能へ著しい影響を与えない光プローブとして使用可能である。麻酔・不動化した後人工呼吸器で呼吸を管理したブタに、0.1mgから1.0mg/kgのICGを静脈内投与し、体外より780,805,830nmにおける吸光度変化を連続的に計測した。末梢血管を強く拡張させる二酸化炭素(1-5%)を吸気へ添加し、循環血液量を大きく変化させて、体外から計測した光特性への影響を検討した。最大で組織内血液容積を135%まで増加させた場合にも、吸光係数および等価散乱係数の推定値への影響は5%未満であり、血液量の変化・血液に由来する光吸収の変化が骨組織の光学定数に与える影響は少ないものと考えられた。
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