近年、老齢者人口の急激な増加によって、骨粗鬆症への対策が重要となっている。骨粗鬆症診断の手法として、現在までに骨組織内のヒドロキシアパタイトによるX線の吸収を利用したDXA法や、踵骨での超音波の音速や強度減衰に基づく超音波装置(QUS)が主に用いられている。しかしながら、DXAには放射線被曝の問題・面積密度しか求められないという欠点がある.また、超音波の音速や減衰に関しても、それらがどのような物理的実体に対応しているかが必ずしも明らかではない。したがって、骨塩量を正確に反映し、かつ骨の強度や構造上の特徴をよく反映する評価指標の開発が望まれる。 骨基質はヒドロキシアパタイト58%、コラーゲン25%、水分12%、炭水化物5%から成り、これらの成分のうちヒドロキシアパタイト結晶が主に光散乱粒子としてふるまう。したがって骨密度と光散乱特性の間に密接な関連があり、また光散乱の異方性を検討することにより、骨微細構造を反映する評価指標となり得ることが期待できる。 本研究では以上の観点より、比較的生体を通過しやすい近赤外光の散乱特性に基づいて、非侵襲的に骨質の評価を行なうための手法について検討を行ない、臨床応用、特に予防医学的応用の可能性を探ることを目的とした。本研究での一連の検討から、骨および軟組織を含む生体組織の光吸収および光散乱に関する光学特性を精密に評価することが可能となり、さらに動物およびヒト骨組織において、骨密度と等価散乱係数が良く相関することを見い出した。
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