1.薬物代謝酵素の遺伝子多型と発癌感受性に関する分子疫学的解析 アリルアミン代謝に関与する抱合体酵素N-acetyltransferase(以下NAT)1遺伝子多型と胃癌、大腸癌発症に関する症例・対照研究を行った。その結果、NAT1 PolyA siteの遺伝子多型(MAT1^*10)が高分化型胃癌の遺伝的危険因子であることを明らかにした。 2.薬物代謝酵素遺伝子多型と環境曝露との関連性に関する発癌リスクに関するモデル化 これまでの疫学研究によって尿路上皮癌の環境要因として産業職場からのベンジジン、β-ナフチルアミンといった芳香族アミンの曝露や喫煙といった生活習慣が報告されている。Benzo(a)pyreneの代謝に関与する、Glutathione S-transferase(GST)M1、P1、ハロゲン化メタンを代謝するGST T1、アリルアミン代謝に関与するNAT2の4つの薬物代謝酵素の遺伝子多型と尿路上皮癌感授性、喫煙との関連性を分子疫学的に解析した。その結果GSTM1とNAT2遺伝子多型が尿路上皮癌発症の遺伝要因であることが示された。また、GSTM1の遺伝子型で分け、喫煙量と発癌危険度との関連性を解析したところ、遺伝子型によってその危険度パターンが異なることが示された。同様の結果がNAT2の遺伝子型にも観察されており、化学物質の曝露に対して感受性が異なる集団の存在が示唆された。 3.いくつかの検診機関より情報収集を行い、トリクロロエチレンを使用している作業現場を選定し、遺伝子多型と尿中総塩化物との関連性について検討した。しかし、曝露環境の改善により、トリクロロエチレンの曝露濃度が低く代謝酵素GSTとのあいだに関連性は認められなかった。
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