研究概要 |
これまでに,トリブチルスズ(TBT)がPC12細胞のc-fosやc-jun等の前初期遺伝子のmRNAレベルを増加させることを明らかにしてきた(Environ Toxicol Pharmacol 2:373-380,1996).そこで 平成10年度は,1.TBTの細胞毒性の測定, 2.c-Fos欠損細胞株の培養確立,3.リン酸化型JNK/SAPKおよびc-Jun蛋白レベルの測定と重金属暴露によるその影響 の3点について研究成果を得た. 1.TBT(最終濃度1μM)を暴露したPC12細胞の生存率をWST-1法を用いて測定した.その結果,細胞生存率は,暴露4時間後で約70%,8時間後で約40%にまで低下した.今後,TBT(最終濃度1μM)による細胞障害を暴露4および8時間後に測定することとした. 2.c-Fosノックアウトマウスおよび正常マウスから分離培養した線維芽細胞(c-Fos欠損細胞2種類,正常細胞1種類)を継代培養し,その増殖能に各細胞間に明らかな差がないことを認めた.今後,本細胞株を用いて,上記TBT暴露条件下における細胞生存率等を測定し,TBT暴露によるc-fos遺伝子発現の中毒学的意義を明らかにする. 3. アポトーシスに関与するJNK/SAPKシグナル伝達系は,前初期遺伝子発現を直接的に活性化することが知られている.そこで,まず,著明な細胞内カルシウム濃度上昇作用を有する重金属のうち,カドミウムについてJNK/SAPK系への影響をウェスタンブロッティング法により調べた.その結果,カドミウムは,LLC-PK_1細胞のリン酸化型JNK/SAPK,同c-Jun蛋白レベルを細胞内カルシウムに依存して増加させた.細胞内カルシウム濃度を同様に上昇させるTBTについて,前初期遺伝子発現に至るシグナル伝達系を明らかにするために,PC12細胞のJNK/SAPK系に及ぼす影響の検討を開始した.
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