研究概要 |
これまでに,トリブチルスズ(TBT)がPC12細胞のc-fosやc-jun等の前初期遺伝子の発現を誘導することを明らかにし,さらに,c-Fos欠損細胞株における細胞毒性評価とウェスタンブロッティング法によるリン酸化型JNK/SAPKの検出を確立した.そこで,平成11年度は,1.c-Fos欠損細胞株におけるTBTの毒性,2.TBTがMAPキナーゼシグナル伝達系に属するJNK/SAPK系に及ぼす影響の2点について研究成果を得た. 1.c-Fosノックアウトおよび野生型マウスから分離培養した線維芽細胞株(c-Fos欠損細胞2種類,野生型細胞1種類)を用いて,TBTおよび塩化カドミウム暴露時における細胞障害をMTTアッセイ法等により評価した.その結果,c-Fos欠損細胞は,野生型細胞と比較して,TBT,塩化カドミウムのいずれの暴露に対しても,その細胞生存率の明らかな低下が認められた.従って,TBTを含む重金属暴露によるc-fos遺伝子発現誘導は,その細胞障害の抑制に関与している可能性が考えられた. 2.TBT(1μM)を暴露したPC12細胞において,リン酸化型JNK/SAPKレベルの著明な増加が認められた.一方,総(リン酸化型+非リン酸化型)JNK/SAPKレベルには変化を認めなかったことから,TBTはJNK/SAPK蛋白の量自体には影響することなく,JNK/SAPKを活性化することが明らかになった.他の重金属化合物(無機水銀)暴露でも標的細胞(近位尿細管細胞)において,同様の所見が認められた.TBT暴露によるJNK/SAPK活性化は,引き続き,前初期遺伝子発現を誘導するものと考えられ,遺伝子発現連鎖の初期段階において重要な役割を果たしていると考えられる.
|