研究概要 |
ヒトT細胞株であるCCRF-CEM細胞を用いて,トリブチルスズ(TBT)および他の重金属の暴露による細胞毒性におけるMAPキナーゼの関与について検討した。 TBTの暴露量(0.25-2μM)に依存して、リン酸化型ERK(extracellular signal-regulated protein kinase)、JNK(c-Jun N-terminal kinase)、p38MAPK蛋白量の著明な増加がウェスタンブロッティング解析にて認められた。各リン酸化型MAPキナーゼ蛋白量は、TBTへの暴露15分後より増加し、4時間後までその増加は持続した。しかし、各総(リン酸化型・非リン酸化型)MAPキナーゼ蛋白量の変化は認められなかったことから、TBTは各MAPキナーゼの蛋白量自体には影響することなく、MAPキナーゼを活性化することが明らかになった。TBTは、その代謝物(ジブチルスズ、モノブチルスズ)や他の有機スズ化合物(トリメチルスズ、トリフェニルスズ、トリエチルスズ)と比較して、MAPキナーゼ活性化能が明らかに高かった。細胞内カルシウムキレート剤であるBAPTA/AMの前処理により、TBTによるMAPキナーゼ活性化は抑制され、さらに、その後の細胞死も明らかに軽減された。以上の結果から、細胞内カルシウムがTBT暴露リンパ球のMAPキナーゼ活性化に関与していること、c-jun等の前初期遺伝子群の発現を調節するMAPキナーゼシグナル伝達系活性化がTBTの細胞毒性発現に関与していることが考えられた。 また、カドミウムおよび無機水銀暴露リンパ球のMAPキナーゼも活性化され、このうち、カドミウムではERK経路が細胞死に関与していることを明らかにした。さらに、環状ノナケタイド化合物のLL-Z1640-2が重金属によるMAPキナーゼ活性化を抑制することを示した。
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