われわれは、飲酒と大腸がんの関連を知るために、結腸がん265例および直腸がん164例と対照群794例を用いて症例対照研究を行い、多量飲酒者ほど相対リスクが高く、また中等度のアルコール非耐性であるアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)のへテロ個体ではリスクがより高くなる事をすでに報告した。 飲酒と大腸がんの関連は葉酸欠乏を介していると考えられる。それに関連して米国から、葉酸代謝酵素Methylenetetrahydrofolate reductase(MTHFR)の遺伝子型の違いによって大腸がんのリスクが異なるという仮説および疫学的結果が出された。この遺伝子の第677塩基にAla(A)とVal(V)の遺伝的多型があって、前者が酵素活性正常、後者が機能低下型であり、V/Vホモ個体は葉酸欠乏になり難いため、大腸がん低危険群であるという。これを確かめるために症例対照研究を行った。症例群は結腸がん178例と直腸がん113例、対照群は良性疾患患者と人間ドック受診者の中から症例群と性年齢分布を揃えるようにして288例を選び、遺伝子型と飲酒歴その他の生活歴を調べた。遺伝子型検査は末梢血DNAを用いたPCR法、生活歴調査は問診票によった。 その結果、両群の遺伝子型分布に全く差が認められなかった。また飲酒歴別に見ても両群間に差はなかった。もともとV/V個体は高ホモシステイン血症を通じて心臓血管系疾患の高危険群である。そのため本研究においても、高年齢群ほど頻度が低下し、しかもそれが喫煙や飲酒歴と無関係ではない。このように対象疾患との関連を調べるべき要因が競合死因となる他疾患の高危険因子である場合には、症例対照研究の手法は不適切であり、上記の米国の研究報告も再吟味すべきである。次年度にはさらに症例数を増やして、食生活との関連を分析する予定である。
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