研究概要 |
われわれは症例対照研究によって、多量飲酒者ほど大腸がんのへのリスクとなっていると高く、また中等度アルコール非耐性であるアルデヒト脱水素酵素(ALDH2)のヘテロ個体ではリスクがより高くなる事を明らかにし、大量飲酒が葉酸欠乏を通して大腸がんのリスクとなっていると考えた。 (Murata,M et al.Jpn J CancerRes.90:711-719,1999)。 それに関連して米国から葉酸代謝酵素Mrthylenetetrahydrofolate reductase(MTHFR)の遺伝子型の違いによって大腸がんのへのリスクが異なるという仮説が出された。(Chen,J et al.Canver Res.56:4862-4864,1996)。この遺伝子の第677塩基にAls(A)とVal(V)の遺伝的多型があって、前者が酵素活性正常、後者が機能低下型であり、V/Vホモ個体は葉酸欠乏になり難いため、大腸がん低危険群であるという。これを確かめるために症例対照研究を行った。症例群は結腸がん179例と直腸がん113例、対照群は良性疾患患者161例で、遺伝子型と飲酒歴その他の生活歴を調べた。遺伝子型検査は末梢血DNAを用いたPCR法、生活歴調査は問診票によった。 症例対照全体としてV/V個体の頻度は、男性において40歳代の19%から70歳代の10%へと高年齢ほど低かった。V/V個体は高ホモシステイン血症によって心臓血管系疾患の高危険群であるため、死亡率が高いと解釈できる。常用飲酒者における頻度(17%)は非飲酒者(9%)に比べて有意に高値で、これは飲酒が心臓病死亡に対する防御因子となるためと解釈される。喫煙歴による差は無かった。女性では年齢依存性は明確ではなかった。性と年齢で層化して症例対照群間の比較を行ったが、遺伝子型分布に全く差が認められ無かった。さらに肉類や野菜等の摂取頻度あるいは飲酒歴で層化しても、症例対照の差は認められなかった。以上の結果はこの酵素遺伝子が大腸がんの罹病に関係していないことを示しており、上記の仮説は再吟味すべきであると考えられる。
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