研究概要 |
酸化LDLはコレステロールエステルの細胞内での蓄積をもたらすのみならず,さまざまな炎症性変化をひき起こし,粥状動脈硬化発生の初期には,細胞内に大量のエステル化コレステロールを蓄積した泡沫細胞の血管内皮下での局在的な集蔟がみられるのが特徴とされ,このような泡沫細胞の起源は,血中の単球由来のマクロファージ及び血管平滑筋細胞であるといわれるが,特にその極めて初期の病変では,その大部分がマクロファージ由来であるとされている。 本実験においてもマクロファージとLDL,Cu^<2+>を同時に培養した場合,LDLの酸化変性とともにエステルコレステロールが蓄積した泡沫化したマクロファージが蛍光顕微鏡下で多数観察された。しかし羅布麻エキスを添加した群では,これら所見がいずれも軽減し,特にエステルコレステロールの蓄積の程度がnativeLDL存在下の場合と匹敵するレベルにまで低下していた。また内皮細胞にLDLとCu^<2+>を添加して培養した場合,培地中へのTBARS,総LDHの放出が増加,細胞生存率の低下が観察されたが,羅布麻エキス添加群ではこれらパラメータがいずれも改善し,羅布麻エキスの抗動脈硬化作用を細胞レベルで明らかにした。 Steinbergらは粥状硬化の形成において酸化LDLは,(1)血液単球に対して走化性を有し,血管壁へ単球を引き込むとともに,一旦動脈内膜へ侵入してマクロファージ化すると,その遊走を抑制して血液中へもどるのを阻止する,(2)scavenger受容体を介してマクロファージにとり込まれ,これを泡沫化する,(3)強い細胞障害性を有し,内皮障害を来して病変を進行させることを挙げ,酸化LDLが粥状動脈硬化の発症から進展巣の形成に至る広汎な段階に関わっている可能性が示されている。本実験において,羅布麻エキスが酸化LDLによってもたらされたマクロファージの泡沫細胞化と内皮細胞障害性に対し抑制作用を有することが示され,さらに走化性,遊走能などの検討も必要であるが,先に報告した高コレステロール投与ラットを用いた経口投与実験,無細胞系における酸化LDLの生成抑制作用から鑑み,羅布麻エキス自身が粥状硬化進展の予防に有用である可能性が推測された。
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