研究概要 |
研究者らはホルモン作用が疑われる環境汚染物質,特に重金属カドミウムの生体影響について分子生物学的アプローチを行ってきた.我々の研究は2つの分野(細胞毒性学,環境遺伝学)にまたがる.(細胞毒性学研究)昨年に引き続き,カドミウム暴露によって変動する遺伝子転写産物のスクリーニングと同定をおこなった.Subtractive suppressive hybridization(SSH)法を用いたスクリーニングの結果100個以上の遺伝子転写産物のクローンが得られ,順次クローンの塩基配列を決定していった.塩基配列の情報からmetallothioneinII,zeta-crystalline,cytochrome C oxidase subunit IV,glutathione synthetase,serine/threonine protein kinase,heat shock protein 10,transduction beta-1 subunit,tunp,lipocortin II,各種熱ショック蛋白(hsp 10,40,60,70,86),BAG-3,complement cytolysis inhibitor(CLI)などの遺伝子転写産物を同定できた.また,これらの遺伝子は,カドミウム暴露量や暴露時間に応じて特異的な発現パターンを示すことがわかった.カドミウム暴露によって活性化される遺伝子とホルモン作用の関連については今後の研究が俟たれる.(環境遺伝学研究)イタイイタイ病はカドミウムの慢性暴露に関連した疾患であるが,患者は妊娠,出産を経験した女性に偏っている.イタイイタイ病発症には女性内分泌系が関わっていることが推測されてきた.エストロゲン受容体(α型)がイタイイタイ病の発症機転に関与している可能性を確かめる目的で,イントロン1の制限酵素部位(PvuII,XbaI)の多型,および本遺伝子の約1kb上流にあるTAリピートの多型について検討したところ,本症患者群の遺伝子型分布と対照群の遺伝子型分布のあいだに有意な差を認めなかった.このことより,エストロゲン受容体(α型)遺伝子多型性とイタイイタイ病の発症機転との関連が乏しいことを示唆している.
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