研究概要 |
1.1988年に、福岡県久山町の成人健診を受診した40-79歳の男性1,112名のうち、75g経口糖負荷試験で糖尿病と判定した者を除いた934名を対象とし、アルコール摂取の血清脂質に与える影響が血清インスリン(INS)値を介するか否かを検討した。 飲酒量の上昇とともにINS値は有意に低下したが、血糖値に変動はなかった。一方、飲酒量とともにHDLコレステロール(HDLC)値は有意に上昇し、LDLコレステロール(LDLC)は有意に低下した。中性脂肪は飲酒量に対してU字型の傾向を示した。つまり、飲酒量の上昇とともにINS抵抗性は低下し、血清脂質値は改善することが示唆された。しかし、血清脂質値と飲酒量の関係をみた重回帰分析において、説明変数にINS値を追加しても、HDLC、LDLCに対する飲酒の寄与率の低下は11%程度にとどまった。したがって、飲酒の血清脂質代謝に及ぼす影響は血清INS値あるいはISN抵抗性の改善を介さない別の機序によると考えられる。 2.福岡県久山町の60歳以上の高齢住民1,097名を1988年から5年間追跡し、追跡開始時の血清INS値およびINS抵抗性症候群が追跡期間中の心血管病発症に及ぼす影響を検討した。 女性では、高INS血症(空腹時INS値≧11μU/ml)群の虚血性心疾患(CHD)発症率が非高INS血症群に比べて有意に高かったが、男性では有意な関連は認めなかった。多変量解析でも、高INS血症は他の危険因子と独立してCHD発症の有意な危険因子となった。また、INS抵抗性症候群の構成因子である高INS血症、肥満、耐糖能異常、脂質代謝異常、高血圧の合併数が増加するにしたがい、CHD発症率は有意に上昇した。一方、高INS血症およびINS抵抗性症候群の集積と脳梗塞発症の間には明らかな関係は認めなかった。 以上の成績から、わが国の高齢者ではINS抵抗性がCHDの危険因子であることが示唆された。
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