研究概要 |
【目的】福岡県久山町の追跡調査において,高インスリン血症およびインスリン抵抗性が高血圧発症に及ぼす影響を検討した. 【対象および方法】1988年に行われた久山町の成人検診を受診した40-79歳の2480名(当該年齢人口の77%)に,75g経口糖負荷試験を実施した.このうち5年後の追跡調査を受けた1616名(生存者の68%)から,追跡開始時に高血圧・糖尿病(WHO基準)・心房細動を有する者を除いた1133名(男性405名、女性728名)を本研究の対象とした.収縮期血圧160mmHg以上または拡張期血圧95mmHg以上,あるいは降圧薬の持続服用を高血圧と定義した.追跡開始時における負荷前および負荷後2時間のインスリン値の和(ΣIRI)を解析に用いた. 【結果】高血圧発症者は男性65名(累積発症率16.0%),女性121名(16.6%)であった.ΣIRIの三分位で対象者を3群に層別し,高血圧の累積発症率を年齢調整して求めた.男性の発症率は,最低値群15.2%,中間値群16.5%,最高値群16.7%で有意差はなかったが,女性ではそれぞれ12.1%,16.8%,22.5%で,最低値群と最高値群の間に有意差を認めた.追跡開始時における男性の飲酒頻度は58%で,女性の8%に比べて有意に高かった.そこで,さらに飲酒の有無で層別して同様の解析を行った.その結果,男女とも飲酒習慣のない者では最高値群で高血圧発症率が高かった.多重ロジスティックモデルによって他の危険因子を調整しても,女性のΣIRI最高値群における高血圧発症のリスクは最低値群の1.8倍と有意に高かった. また、インスリン抵抗性症候群の構成因子である高インスリン血症,境界域高血圧,IGT,脂質代謝異常,肥満の合併数をインスリン抵抗性のレベルの指標として,高血圧発症率との関連を検討した.その結果,発症率は男女ともに合併数の増大とともに有意に上昇した. 【結論】高インスリン血症は,女性において高血圧発症の有意な独立した危険因子となった.飲酒頻度の男女差がこの性差の要因であると考えられた.また,インスリン抵抗性は男女において高血圧発症の有意な危険因子となることが示唆された.
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