低蛋白食飼育で作製したC57BL/6低栄養マウス(protein-calorie malnutrition;PCM)はべ口毒素大腸菌O157に高感受性を示す。本研究ではPCMマウスの易感染性についての基礎的解析、及び病状進行におけるサイトカインの役割について検討を加えた。PCMマウスでは、腸粘膜上皮の発育不良とIgA産生細胞数も正常マウスに比して有意に少なく、非特異的バリアーの低下がPCMマウスのべ口毒素産生性大腸菌O157高感受性の主因であると思われた。コレラ毒素投与によりIgA産生細胞数が増加することで、PCMマウスの感受性が低下したことから、低栄養小児の多い開発途上国であってもコレラ浸淫地域ではE.colj 0157:H7感染発症者が少ないもの考えられた。PCMマウスにおいて、べ口毒素産生性大腸菌O157感染後急激に産生増強されるTNF-αは、べ口毒素の標的細胞の細胞質内でのcompartmentalizationを亢進させ、アポトーシスを促進することが認められた。また、感染後5日目以降有意に血中上昇するIL-10は抗アポトーシス因子としての役割を担っている可能性がin vitroの解析結果から示唆された。低蛋白状態は正常蛋白食個体に比して極めて微量の内毒素や臓器蛋白によってIL-1、1L-6、TNF-α等の炎症性サイトカインが産生されることが、ヒトのKwashiorkorの解析で明らかにされている。このことから、PCMマウスにおけるこれら炎症性サイトカインの上昇は、感染後血中に吸収された微量の内毒素及びStxによる単球/マクロファージへの刺激が原因となっていると推察された。PCMマウスのべ口毒素産生性大腸菌O157に対する高感受性解析結果から、近年の小児食生活に見られる偏食や高齢者における栄養低下はべ口毒素産生性大腸菌O157に対する感受性亢進の要因になると考えられた。
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