ベロ毒素(Stx)産生腸管出血性大腸菌感染に合併する脳症の発症機序を、低蛋白飼育マウス及びヒト血管内皮細胞(HUVEC)培養系で解析し以下の結果を得た。 1)感染後2日目から血中にはTNF-αの上昇を認め、3〜4日後にピークに達した。IL-10は感染3日後から徐々に上昇し、5〜6日目にピークに達した。血中ベロ毒素は、感染3〜5日目に検出し得た。脳抽出液中には感染3日後からTNF-αが検出され、6日後には2倍に増加していた。また、感染6日目にはIL-10も検出し得た。 2)脳の中性糖脂質中にはStx受容体(Gb3)が存在し、精製Stxが結合し得ることを認めた。 3)感染後5日目以降神経症状を呈したマウスにおいてのみ、感染10日目の脳切片中にアポトーシス細胞が著しく増加していた。 4)TNF-α共存下でのみHUVEC細胞内へのStx2取り込み、及び分解が亢進することを蛍光色素ラベルStx2を用いた解析から明らかになった。 5)TNF-αとStx2の同時添加でHUVECの細胞傷害が著しく亢進し、この傷害は主としてアポトーシスによることが、TUNEL法及び抽出DNAの電気泳動解析から判明した。一方IL-10はこのTNF-αとStx2によるアポトーシスの誘導を抑制し得た。 6)TNF-α前処理(6時間)後にStx2を添加した時には、同時添加と同レベルにHUVECの細胞傷害は顕著であったが、Stx2前処理後にTNF-αを添加しても有意な細胞傷害は認められなかった。 以上の結果から、感染後血中TNF-αが早期に上昇することから、TNF-αとベロ毒素の共存による血管内皮傷害により、ベロ毒素が中枢系へ移行し得ると考えられた。また、脳内にはベロ毒素の機能的受容体が存在したことから、ベロ毒素による直接的神経細胞の傷害が生じるもの推察された。さらに、血中及び脳内で検出されたIL-10はベロ毒素が関与するアポトーシスに対して抑制的に作用することも認められた。
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