研究目的:転倒は高齢者において日常的な出来事であり、そのことが生活の質の低下にどのように影響するかの検討は重要である。本研究は、初回調査で過去1年間に転倒のなかった者を選択し、その対象を1年間追跡することにより、転倒経験がその後の心身の健康及び日常の生活行動に及ぼす影響の程度を明らかにすることを目的としている。 対象と方法:調査の対象は、北海道勇払郡O町に住む65歳以上の住民のうち介護を必要としない871名である。このうち転倒の有無に関する質問に回答した759名が初年度調査の分析対象である。調査は、平成10年9月7日〜9月30日に各戸訪問による面接聴き取りにより行われた。調査項目は、過去1年間の転倒の有無および転倒時の状況、転倒恐怖感、既往歴、健康度自己評価、生活満足度、ADL、IADL、知的能動性、社会的役割、ソーシャルネットワーク、保健行動などである。 結果:有効回答者759名の内訳は、男性347名(45.7%)、女性412名(54.3%)であり、80歳以上の後期高齢者は男性の10.7%、女性の15.6%であった。過去1年間の転倒経験「あり」は156名(20.5%)、「なし」は603名(79.5%)であった。男女別にみた転倒割合は、男性19.3%、女性21.6%と女性に僅かに多い傾向であった。また、転倒経験「あり」の者は、「なし」の者に比べて主観的健康度は「低い」、転倒することへの恐怖感は「強い」、外出を控えることが「多い」などが示され、さらに主観的幸福感も低い傾向にあった。しかし、これらの結果は横断調査であるため因果関係については、次年度の追跡調査データを待たなければならない。 次年度の計画:平成10年度の調査で転倒経験「なし」の603名を対象に、その後1年間の新たな転倒経験が高齢者の健康や生活の質の低下にどの程度影響するか縦断的に明らかにする。
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