研究目的:本研究は、初回調査で過去1年間に転倒のなかった者を選択し、その対象を1年間追跡することにより、転倒発生がその後の転倒恐怖感、心身の健康度及び日常生活の及ぼす影響の程度を明らかにすることを目的としている。 対象と方法:調査の対象は、北海道O町に住む65歳以上の871人である。調査は2回行なわれた。初回調査(1998年)への回答者は754人であった。追跡調査(1999年)は、初回調査において、転倒「なし」と回答した599人を対象とした。このうち、518人から回答が得られた。調査は、各戸訪問による面接聴き取りによった。調査項目は、性、年齢、過去1年の転倒の有無と転倒時の状況、転倒恐怖感、自己効力感、既往歴、健康度自己評価、生活満足度、手段的動作能力、社会的役割、ソーシャルネットワーク、日常の生活習慣などである。 結果:初回調査における過去1年間の転倒発生率は、男性では19.3%、女性では21.6%と女性に高い傾向にあった。歩行補助具の利用者及び高血圧、白内障、骨粗しょう症の既往歴を有するものに転倒の発生が多かった。 追跡調査に応じた518人のうち、転倒者は68人、非転倒者は452人であった。これらの転倒群および非転倒率群を対象として、転倒が生活の質に与える影響を評価した。転倒群は、非転倒群に比べて転倒への恐怖感が増加した。主観的健康感や生活満足度は、転倒群で低下し、非転倒群では逆に増加した。兄弟や近隣との交流人数、社会的役割得点、および社会参加特典は、転倒群より非転倒群において顕著な低下を示した。 これらから、高齢者の転倒は再転倒への不安を増すだけでなく、主観的QOLを低下させ、さらには社会的役割や人々との交流を制限するように働くことが示唆された。しかし、転倒が生活の質に与える影響は後期高齢者において、より強くなるとの仮説は必ずしも支持されなかった。
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