勤労者の突然死が日本社会の話題に上るようになって10年以上が経過している。その原因として過労が取り上げられているが、未だにはっきりとした因果関係が証明されていない。過労死による主たる死因は心筋梗塞等の心臓死と言われているが、毎年行われている職場の定期健診時にこれらの疾患の発病予測が十分行われていないのが現状である。このため、労働安全衛生規則44条で規定された職場定期検診の10項目(血圧、尿検査、貧血、肝機能、脂質、心電図等)の意議が問われている。 本研究で明らかにした主たる研究成果は以下の3点である。(1)突然死した勤労者の生前に行われていた定期健診の心電図波形を、健常な勤労者で見られる心電図波形の頻度、性質において比較した。突然死症例と健常症例の間で心電図波形の異常に有意差が認められず、通常の定期健診で行われている心電図検査では突然死を予測することが不可能であると推測された。(2)突然死の予測に有効であるデータが何かを文献で検討すると、心筋梗塞や糖尿病等の患者の生命予後の予測にある程度有効である指標として心電図QTc時間と心拍変動CV_<RR>が挙げられていた。前者は通常の定期健診で測定される心電図計の自働解析結果に含まれているが、健診結果として記載されることもなく、当然のことながら健診の事後措置(健康相談)などでも利用されていない。現在健康である勤労者の心電図Qtc時間を有効に活用すれば、今後の予測因子となりうる。(3)交代勤務者は、日勤者と比べ虚血性心疾患等に罹るリスクが1.4倍高いと欧米の総説で報告されている。そこで交代勤務の循環器系(自律神経)機能に及ぼす影響を心電図Qtc時間を用いて検討すると日勤者に比べ、交代勤務者で心電図Qtc時間が有意に延長していた。さらに異常QTc(440msec以上)を示すリスク(多要因調整Odds比)が日勤者を1とした場合に交代勤務者で8.15(90%信頼区間1.31〜50.5)となることが示された。 以上により、突然死に至る前駆状態(症状)を自律神経系指標である心電図QtcやCV_<RR>で察知することにより今後の「突然死」の予知・予防に結び付ける可能性が示唆された。
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