本研究費の援助を受けた平成10年度より平成13年2月末(本報告書記述時点)までに東京・九州・四国地区でそれぞれ100名以上、全国で400名以上の調査を終えている。その結果、精液性状に関しては、精子濃度の平均値は1ミリリットルあたり1億個弱と問題のある数値ではないものの、精子運動率が30%未満と世界保健機関(WHO)の基準値である50%を下回っていること、さらに精子濃度には地域差(九州>東京・四国)と年代差(20歳代<30歳代)が存在することなどを明らかにした。また、精液採取条件が精液性状に及ぼす影響を検討し、採取場所は精液性状に影響を与えないことを示した。現在、精液性状の個人変化および季節変動を検討する目的で、10人程度のボランティアから定期的に精液の提供を受けて検討を進めている。さらに、精子の質的変化をとらえる方法として精子染色体の蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法による分析に取り組み、X、Y両性染色体性と18番染色体を対象とし染色体異数性と精液性状あるいは妊孕性等との関連を検討し、妊孕性の確認された健常人の精子染色体異数性の基礎的データを求めた。なお、精液性状の変化の要因に関しては、影響を与える因子は、ストレス、温度、食生活、大気汚染、薬物摂取など多く存在すると考えられており、その因子の一つとして、内分泌撹乱化学物質(いわゆる"環境ホルモン")の関与が推定されているのが現状で、化学物質と精液性状の関連については推測の位置をでていない。現在、今回の研究で収集した精漿試料中の各種化学物質の検討を進めており、来年度の早い時期には一定の結果が出るものと期待される。以上の成果について、関連学会の招請講演、一般講演などで発表し、総説を書くことで啓蒙活動を行った。現在、研究成果は外国雑誌への投稿を終えたものもあるが、一部は投稿準備中である。
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