ストレスは炎症性疾患を増悪させるといわれている。平成10年度は慢性的精神的ストレスである単独隔離ストレスをBALB/c雄マウスに負荷し、接触皮膚炎(CS)、ランゲルハンス細胞(LC)やケラチノサイト(KC)の機能や細胞表面分子発現に及ぼす影響を解析した。平成11年度は、KCの遺伝子発現に及ぼす慢性ストレスの影響を、RT-PCR法で解析した。予備テストとして一次刺激物質フェノールと接触感作原トリニトロクロルベンゼン(TNCB)塗布によるmRNA発現変化を調べた所、前者では接着分子ICAM-1のmRNAの発現のみが誘導されたが、後者では、ICAM-1、E-cadherin(接着分子)、トランスグルタミネース(分化マーカー)、c-fosおよびc-myc(癌原遺伝子)、コーチゾン刺激ホルモン放出ホルモンおよびサブスタンスPのレセプター(神経伝達物質関連)、IL-1αおよびTNF-α(炎症性サイトカイン)関連のmRNA発現が顕著に増大した。単独隔離によってこれらの遺伝子発現は一過性に増大した。さらに単独隔離マウスにTNCBを塗布し、各遺伝子のmRNA発現のピーク時にRNAを抽出し、発現解析した所、慢性期にはトランスグルタミネースおよびサブスタンスPのレセプターのmRNA発現のみが増強され、その他の遺伝子の発現は対照よりも低下していた。これらの結果は、慢性的なストレスによってKCの分化が亢進し、サイトカイン産生能などの機能を失うことを示唆している。また、これらの諸変化は、単独隔離ストレスによって皮膚局所ヘサブスタンスPが放出されることによって引き起こされている可能性を示している。
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