ストレスは炎症性疾患を増悪させるといわれているが、そのメカニズムはよくわかっていない。そこで、慢性的精神的ストレスとして長期にわたる単独隔離をBALB/c雄マウスに施し、接触皮膚炎(CS)、ランゲルハンス細胞(LC)やケラチノサイト(KC)の機能や細胞表面分子発現に及ぼす影響を解析した。その結果、慢性ストレスによってCS発現やLCの抗原提示能は顕著に増幅される一方、KCの抗原提示能、IL-1α及びTNF-α(炎症性サイトカイン)の産生能、増殖能は顕著に抑制されることが判明した。そこで、ストレス負荷マウスのKCのRNAを抽出し、RT-PCR法でMrna発現解析を行った。予備テストとして一次刺激物質フェノールと接触感作原トリニトロクロルベンゼン(TNCB)塗布によるMrna発現を調べた所、前者では接着分子ICAM-1のMrnaの発現のみが誘導されたが、後者では、ICAM-1、E-cadherin(接着分子)、トランスグルタミネース(分子マーカー)、c-fosおよびc-myc(癌原遺伝子)、コーチゾン刺激ホルモン放出ホルモンおよびサブスタンスPのレセプター(神経伝達物質関連)、IL-1αおよびTNF-α関連のMrna発現が顕著に増大した。慢性ストレスによってこれらの遺伝子発現は一過性に増大した。さらに慢性ストレス負荷マウスにTNCBを塗布し、Mrnaの発現を解析した所、トランスグルタミネースおよびサブスタンスPのレセプターのMrna発現のみが増強され、その他の遺伝子の発現は対照よりも低下していた。これらの結果は、慢性ストレスによってLCの機能が活性化される一方、KCの分化異常が亢進し、サイトカイン産生能などの諸機能を失うこと、そして、これらの諸変化が皮膚局所へのサブスタンスPの放出によって引き起こされている可能性を示唆している。
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