研究概要 |
我々は、ウシ心臓のミトコンドリアの脂質酸化についての研究で、脂質酸化の際に発生する各種脂肪酸をガスクロマトーグラフィー・マススペクトロメトリー(GC・MS)や液体クロマトグラフィー・マススペクトロメトリー(LC・MS)を用いて同定した。すると、種々のハイドロキシ酸、オキソ酸、ハイドロキシエポキシ化合物、エポキシ化合物が形成されることが明らかにされた。これらの合成経路に関しては、カルジオリピン-チトクローム脂質酸化反応系とカルシウム-チトクローム脂質酸化反応系がありうることが示唆された。一方、LC・MSによる分析の際に、ミトコンドリアの膜リン脂質のホスホリパーゼA2での加水分解物の中に、脂質酸化反応の産物とは異なる分子量268の脂肪酸の存在が示唆され、それをGC・MSで同定したところ、人工合成した9,10methylenehexadecanoic acidと同じ保持時間とマススペクトルを有することが明らかになった。また、このシクロプロパン脂肪酸はウシ心筋以外にも、ヒトやラットの肝臓や心臓の膜リン脂質に存在することが明らかにされた。これまで細菌の膜リン脂質にシクロプロパンが存在することは明らかにされていたが、哺乳動物の膜リン脂質にシクロプロパン脂肪酸が同定されたのは初めてのことである。また、このシクロプロパン脂肪酸はミトコンドリア膜だけでなく、ミクロソームや細胞膜にも存在し、リン脂質の1位ではなく、2位に存在していることが明らかにされた。
|