研究概要 |
本年度は,3種の類人猿(ピグミーチンパンジー,ゴリラ,オランウータン)のゲノムDNAについて,昨年度と同様にヒトのマイクロサテライトのひとつであるD14S299(wg1c5)ローカスを特異的に増幅するプライマーを用いてPCR増幅を行い,増幅産物を得た.それら増幅産物の各アリールをクローニング法にて単離後,塩基配列を決定し,既に得られているヒト及び10種の霊長類(類人猿3種及び旧世界ザル7種)のアリールの塩基配列と比較した.この3種の霊長類においても,ヒトを含む霊長類と同様に3ヶ所の多型的リピート部位が存在し,またヒト及びコモンチンパンジー以外の霊長類のように,さらに1ヶ所のリピート部位(GGAT)がみられ,計4ヶ所のリピート部位を有していた.オランウータン,テナガザルに共通な配列や,ゴリラあるいはオランウータンにおいてのみ観察される4塩基単位の挿入・欠失もみられた.また,コモンチンパンジーとピグミーチンパンジーは,リピート数以外は全く同じ塩基配列構造を示した.ヒトに最も近縁であるといわれているコモン及びピグミーチンパンジーでは,ヒトと比較するとリピート数が異なる以外には,1塩基の変異があるのみで,この塩基置換はヒトとチンパンジーが分岐後ヒトにおいて生じたと示唆される.マイクロサテライトD14S299は,ヒト以外の霊長類においても保存され,そのリピート構造は基本的にはほぼ同じであるが,科,属あるいは種に特徴的な塩基置換,挿入・欠失が存在することが明らかとなった.現在,各アリールの塩基配列の整列方法をさらに検討した後,既存の系統樹を用いて,今回観察された科,属あるいは種に特異的な変異がどの分岐過程において生じたかを推定し,ヒトへの分子進化論的解析を試みている.
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