慢性覚醒剤投与ラットにおける海馬及び黒質神経細胞内のCa応答に関する研究を行った。まず脳検索に先立って、前回の科研費研究における慢性覚醒剤投与ラット膵病変部の小血管変性部の電子顕微鏡所見を明確にとらえる事が出来た。その所見をふまえて、同上ラットとコントロールラットにおける海馬及び黒質神経細胞スライスにおける組織所見及び、電子顕微鏡所見を検討した。まず組織所見については、海馬と思われる部位、中脳黒質部位について、コントロールに比し、神経細胞の萎縮、壊死が認められ、グリア細胞の増殖が見られ、各細胞個々については、細胞内[Ca2+]濃度変動を、明確にすることが困難であった。しかし、コレシストキニンを用いた、コレシストキニン・レセプターBに対する細胞内[Ca2+]増加動態については、コントロールに比し、明らかに反応の低下が認められた。しかし同時に行ったコレシストキニン・レセプターB免疫反応性については、抗体調製が困難で、コントロール、慢性覚醒剤投与ラットとの間で、共に、非特異的染色が強く、有意な差は認められなかった。また、上記のスライスについて、前記膵病変部小血管と同様の電子顕微鏡所見は明確にとらえられているので、今後は、別の方法(一例を挙げれば脳灌流法)等を用いて各神経細胞内[Ca2+]の動態を検索することができれば、覚醒剤が、小血管内皮損傷にひきつづいて、神経細胞周囲のコレシストキニン・レセプターBに対する反応性を恐らく低下させている動態が、より直接的にとらえられる事が、間接的ながら示唆された。慢性覚醒剤投与ラットにおいては高頻度に、脳に小出血を生じ、神経細胞の同定、組織摘出に困難を生ずる為、今後は覚醒剤投与量の調節にも留意したい。
|