研究概要 |
法医病理学において急死の原因を正確に診断することは重要な課題である.急死の原因としては心筋梗塞などの虚血性心疾患が多いとされているが,これらの早期虚血性心筋障害の剖検診断は極めて困難である. 本研究で我々は,免疫組織化学的手法を用い74例の法医剖検によって得られた心臓において,左心室の組織切片から早期虚血性心筋障害を検出するために心筋細胞におけるcomplement component C9の発現様態を検討した.剖検心を肉眼所見に基づいて3つのグループに分けた.即ち,明らかな心筋梗塞が認められたか,疑われた31例では28例(90%)にC9陽性像が観察された.冠状動脈に病変がなく,肉眼的にも冠状動脈硬化が認められなかった内因性急死15例中,3例がC9陽性を示した.これらは,死戦期に虚血状態が遷延したと考えられる症例であった.しかし,心臓に起因しない内因死28例では,まったくC9陽性像は認められなかった.これらの結果より,心筋細胞におけるC9陽性像は,早期虚血性心筋障害の剖検診断として信頼性が高く,かつ感受性の高いマーカーであると考えられた.さらに,1年以上の長期間ホルマリン固定されていた11例でも,C9の染色性にまったく影響が認められなかった. 以上のことより,我々が指標としたC9を用いた心臓の免疫染色は,法医実務において早期虚血性心筋障害を診断する際に,retrospectiveな分析を行うことができ,単純かつ有用な方法であると考える.
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