研究概要 |
母乳や精漿中に含有される鉄結合蛋白質ラクトフェリン(以下LF)は,感染や炎症などで活性化された好中球の特殊顆粒中にも発現され,生体防御因子としての機能をもつとされている. そこで,LFが乳幼児急死例における呼吸器感染の有無,および重症度判定のマーカーとして利用できないかと考え,以下のような研究を行った. 【材料及び方法】当教室で剖検した乳幼児急死18例(男4例,女4例)について,左下葉及び右中葉のパラフィン連続切片を作製した.LFの局在は,抗ヒトLF抗体(DAKO)を用いた免疫組織化学染色法(PAP法:DAKOキット)にて検した.一般染色としてはH.E.染色を行った.評価法として,各症例の左下葉及び右中葉のH.E.染色,免疫組織染色それぞれについて,3箇所計6箇所を100倍にて写真撮影を行い,H.E.染色で好中球を含めた炎症細胞数を,免疫組織染色でLF陽性細胞数を同定し,炎症細胞数に対するLF陽性細胞数の割合(%)を算出した.また,LF陽性細胞の染色性もあわせて検討した. 【結果及び考察】乳幼児急死18例の内,剖検時の微生物検査と通常のH.E.染色にて感染症と診断された5例のLF陽性率は,最高60.1%,最低36.5%,平均陽性率は46.3±9.7%であった.そこでまず残りの13症例中平均陽性率46.3±9.7%以上の症例は7例であった.また陽性率46.3±9.7%未満の6例中2例は強く染色されるLF陽性細胞が認められ,感染の疑いが考えられた.残りの4例のLF陽性率は,最高27.8%,最低6.4%,平均陽性率は,18.9±9.0%であった. 以上の結果より,肺細胞の好中球のラクトフェリンを指標とすると,陽性細胞率46.3±9.7%以上の症例では呼吸器感染症が強く疑われ,陽性率18.9±9.0%未満で,かつLF強陽性細胞が存在しない場合は,重症の感染症は否定できるものと考える.
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